調剤業務トータル支援ITシステムの導入効果

医薬分業の進展とともに、保険薬局薬剤師による調剤過誤の報道が少なからずみら れるようになった。多くの保険薬局では、インシデントレポートの導入をはじめとして様々な 調剤過誤防止対策を講じているが、調剤過誤はなくならない。こうした中、(株)クカメディ カルは子会社である(株)エルステのすずらん薬局とともに、“人的な調剤ミスを機器で防止する”という考えのもとに調剤ミス防止ITシステムを開発した。そして、さらに薬局内業務管理に必要な機能を付加させ、調剤業務トータル支援ITシステムへと発展させた。 今回は、そのITシステムの導入効果について紹介する。 

調剤過誤の根絶を目指す 

これまでに調剤過誤防止のために、様々な対策が提案・導入されてきた。たとえば、日本薬剤師会では「薬局・ 薬剤師のための調剤事故防止マニュアル」を発行し、また多くの保険薬局ではインシデント事例を収集し、原因分析を行うなど調剤過誤を未然に防ぐ努力をしてきた。すずらん薬局でも、1998年から調剤過誤の減少を目的として、個人の教育や訓練の実施、作業手順の改善、インシデント・アクシデントレポートの報告義務付けと解析などの様々な対策を講じてきた。それらにより調剤過誤の発生率は減少したが根絶には至らず、別物エラー、数量間違い、脱落などの「調剤時のうっかりミス」が多くを占めていた。

関原先生は、「教育や訓練を実施しても個人差は解消できませんし、個人のコンディションは体調や現場の状況などにより一定ではありません。結局、人の力には限界があり必ずミスは生じます。そこで我々は、機器に頼れるところは機器に頼って調剤過誤を防止しようと、ITシステムを導入することにしました」と打ち明ける。

薬剤師が関与して、調剤ミス防止ITシステムを開発

ところが当時(約10年前)、市販のITシステムには散剤に関して薬剤の取り間違いや計量ミスを防止するシステムがあるのみで、錠剤、外用剤、水剤などを網羅したすべての調剤ミスを防ぐためのシステムはなかった。そこで、(株)クカメディカルはすずらん薬局の現場薬剤師とともに、 「調剤ミス防止のためのITシステムの独自開発に挑んだ。 その際に着目したのが、レセプトコンピュータ(以下、レセコン)で用いられている厚生労働省コード(YJコード)と 医薬品の包装箱などに付けられているJANコードで、両者の照合により調剤ミスを防止するシステムが開発された。 すなわち、担当薬剤師が処方鑑査や薬歴確認などを行ったうえで処方データをレセコンに入力した後、処方箋に基づいて携帯端末で医薬品棚のカセットに貼付されたJANコードを読み込みながら調剤をする。そのとき、専用PCがリアルタイムで厚生労働省コード(YJコード)とJANコードとを照合し、それが合致しなければ携帯端末に「エラー表示」が出て調剤ミスを防ぐというシステムである。2001年8月、調剤ミス防止ITシステムをすずらん薬局の1店舗(1日応需処方箋枚数:250~300枚、月間平均応需処方箋枚数:5,400枚)に導入し、導入前に比べ物エラー、数量違い、脱落などの調剤時のうっかりミスが明らかに減少することや調剤所要時間の増加も生じないことを実証した。 

2年後には、すずらん薬局のすべての店舗に調剤ミス防止ITシステムを導入することになるが、その問にも現場薬剤師からの意見を吸いあげ、システムを何度も練り直すとともにデータを収集・解析し、その有用性を証明していった。

片寄先生は、「現場の薬剤師の使用経験を反映させながらシステムを開発・改良したため、薬局の規模に関わらず、現場の薬剤師が使いやすいシステムになったと感じています」と自信を持って語る。 

調剤業務をトータルに支援するITシステムへと発展

現在では、最初に開発した調剤ミス防止ITシステムを基本とし、調剤履歴管理機能、全医薬品の充填ミス防止機能、医薬品の発注・仕入・出庫・棚卸の管理機能、秤量値ダブルチェックと散剤使用安全域の表示を行う散剤鑑査機能などを付加させ、薬局内の調剤業務をトータルに支援するITシステムへとバージョンアップしている。これにより、薬剤師は調剤時のみならず、医薬品の仕入時や医薬品棚や瓶への充填時にもITシステムのサポートを受け、ミスを防止することが可能となった。また、このITシステムでは医薬品の流れをすべて電子保存しており、誰が、いつ、どこで、どういう行動をしたかも分かるようになっている。

充填ミス防止効果を実証

「発注→仕入→ 充填→調剤→投薬」という一連の流れの中のどこでミスが起こっても、すべて調剤過誤につながる可能性がある。これまでは“調剤”にスポットを当てがちだったが、実際には上流の仕入や充填でミスが起こるほうが被害は大きくなる。そこで関原先生は“充填”に注目し、すずらん薬局川西店(1日平均応需処方箋枚数:160枚、採用品日:約800)のデータを解析してみた。その結果、調査期間である2008年10~12月の3ヵ月間に3,900件の充填を行い、ITシステムにより規格違いやその他のエラーなどの充填ミス69件(1.8%)が防がれていたことが明らかになった。関原先生は、「ITシステムで防がれているとはいえ、充填で1.8%のミスがあるという事実にショックを受けました。ITシステムを用いなくても、充填ミスは調剤時、鑑査時にみつかる可能性はあります。しかし、それは人がやる以上、絶対とはいえません。今後は充填なども含め、調剤業務全体の流れの中でITシステムが有用であることを、さらに提示していきたいと考えています」と意気込む。  

服薬支援が薬剤師本来の業務

薬剤師にとって処方箋どおりの薬剤をきちんと患者さんに提供することは前提条件で、本来やるべきことは患者さんに薬をきちんと飲んでもらうことである。ITシステム 導入前は調剤や鑑査に力を注ぎ込み、精神的にも肉体的にも消耗しきっていたが、今はそうではなくなった。つまり、ITシステム導入の本当の効果とは、薬剤師の調剤過誤に対する心理的不安を解消し、本来の業務である処方鑑査、薬歴確認、疑義照会、服薬指導などに意識を集中させ、その質を向上させることである。片寄先生は、「ITシステム導入前、私はすずらん薬局の店長を務めており、”システムに頼ってミスを防ぐのはナンセンスである。ミスは気合いで防ぐものだ”と精神論をぶちあげ、ITシステムの導入を最後まで拒んでいました。しかし、そういう薬局に限って大きな調剤過誤を起こしてしまいます。今では逆に、ITシステムの導入効果を実感し、その必要性を痛感しています。薬剤師に求められている 本来の業務の質を向上するには、“機器に頼れるところは機器に頼る”という考えを持つことが大切です」と結んだ。 

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